真珠業界 温故知新 ドイツ編(その2)
I:真珠のことから離れますが、ドイツ現地での楽しかった思い出や旅行先で印象に残る場所をお聞かせください。
川本:ドイツへ行った最初の頃、1週間の休暇を取ろうとした時「なんて短い!3週間は取らないと」と笑われました。いわく「1週目は滞在先の気候に身体を慣らす。2週目から楽しむ。3週目で仕事に戻るための英気を養う」。でも、私は3週間の休暇はちょっと(笑)。休暇は長くて2週間でしたね。
I:やはり日本とは心もちから違いますね。ヨーロッパは地続きなので、2週間あればドイツ国外にもかなり足を伸ばせそうです。
川本:そうですね。夏は海、例えば地中海のクレタ島やスペイン、イタリア。冬はスキーでスイスのマッターホルン。ゴルフをするようになってからは、スペイン、ポルトガル、トルコのコースなどを回りました。
I:私の憧れを絵に描いたような休暇の過ごし方です。もちろん、ドイツ国内も数多く旅行されていると思いますが、おすすめの場所などありますか?
川本:ドイツ南方面のロマンチック街道(Romantische Straße)は、何度も行きました。ヴュルツブルク(Würzburg)からフュッセン(Füssen)に続くルートですが、中世都市ローテンブルク(Rothenburg ob der Tauber)、ノイシュバンシュタイン城(Schloss Neuschwanstein)、ハイデルベルク(Heidelberg)など超がつくほど有名な観光地が目白押し。ハイデルベルクには詩人や哲学者が思索にふけったという「哲学者の道」があります。高台にあるハイデルベルク城からは眼下にあるネッカー川や町を一望できるので、観光のおススメスポットです。
川本:ライン川下りもずいぶん行きました。マインツ(Mainz)からケルン(Köln)の船旅で、ローレライの岩も見ましたが、これはちょっと期待外れな感じでしたね。リューデスハイム(Rüdesheim)からコブレンツ(Koblenz)が旅のハイライト。川沿いの城の数々は本当に楽しむことができました。中には宿泊できる城もあり、私は夫婦で行ったブルクホテル(Burghotel Auf Schönburg)も思い出深いです。そんなに大きな城ではありませんが、テラスからライン川を眺められるロケーションが素晴らしい。時間に余裕があれば、立ち寄って宿泊してみるとよいですよ。
I:ドイツ語学科の卒業生でありながらドイツに行ったことのない私ですが、聞くだけでワクワクします。そしてまた真珠の話ではないのですが、ドイツと言えば、ビールやワイン。これらについてもお聞きしたいのですが。
川本:ドイツには各地にビール醸造所(Brauerei)があり、その数は1,000を超えています。ビールは保存や運搬に手間がかかり、昔は保冷設備もなかったことがこの数の多さにつながっているようです。当然、各地特産のビールも多く5,000種類くらいあるようです。ドイツのビール原料は法律で大麦のモルト、ホップ、水、酵母のみを使用するよう決められていて、それ以外を入れたら「ビールではない」。ほとんど濾過されていないのも特徴です。私はピルスナーを好んでいますが、南ドイツのミュンヘンのヴァイツェン(Weizen)という白ビールも有名です。これは小麦を使ったビール。ビアホールではヴァイツェンが提供されることが多いですよ。緑ラベルでよく知られているブレーメンのベックス(Becks)、デュッセルドルフでは黒ビールのアルトビール(Altbier)など、言い始めたらキリがないくらい。
川本:ワインも語り尽くせないほどありますからね。モーゼルワインの醸造所に車で行き、色々試飲して一度に半年分くらいのワインを買い付けたこともありました。ビンの色や形が産地を表していて、ちょっと甘口の白ワインのモーゼルは緑、ラインは茶色のビン、フランケンは形がボックスボイテル(平たく丸い形のボトル)など、見た目でも生産地域がわかりやすいです。個人的にはフランケン地方のワインがドライで香りも良く、好みに合いました。ついでにちょっと、食べ物の話もしましょうか?
I:是非お願いします!
川本:みなさん、ドイツの食べ物といえばザウアークラウト、ソーセージそしてジャガイモを連想されると思います。ソーセージは、ヴァイスヴュルスト(Weißwurst)という子牛の肉と香草から作る白ソーセージがミュンヘンの名物。茹でて辛子(と言っても、からくない辛子)をつけヴァイツェンビールと一緒に食べる、これは最高の組み合わせです。他にはシュパーゲル(Spargel)というアスパラガスがおすすめです。特に4〜6月が最盛期の太くて白いアスパラガスを程よく茹でて、生ハムとジャガイモにバターを溶かしたものをかけて食べる、これは私の大好物でした。
I:伺っているとお腹がへってきます。後半はドイツ観光案内のようになりましたが、これからドイツ旅行を計画されている方に参考になったと思います。最後に今までのご経験を踏まえて、若い方々にメッセージをお願いします。
川本:ドイツでは伝統的に子供が18歳になると独り立ちさせ、親が干渉しない。それが独立心や個人の意識を高めることにつながっていると思います。最近はその年齢を過ぎても親が子の面倒を見る、いわゆるHotel Mamaが見られるようですが。帰国後、日本の若い人たちの内向き志向を耳にするようになりました。日本は少子化の影響もあるのか、子供に手をかけすぎる傾向も散見します。ただ、若い人たちの親世代も経済など成長の体験が少なく、親子共々リスクを取ることに消極的になっているのもわからないではありません。ですが、敢えてこういう時代だからこそ、Try First、失敗やリスクを恐れず一歩踏み出すことが大切なように私は思います。諦めず真面目に仕事のトライを続けることで他人とのルールを覚え、共感してくれる友人や仲間に出会う機会も増えてきます。
川本:ドイツでのデパートとの取引が軌道に乗った話を前半にしました。その頃に銀行から「工場を買わないか」という提案がありました。会社は順調でしたが、工場を買うとなれば借入金も増えることもあり、熟慮の末、それをお断りしました。しかし振り返って見ると、その選択は会社が買ったものを卸すというブローカーという立場にとどまり、もう一段の飛躍のチャンスを逸したように思えるのです。工場があれば、会社のその後の展開は違っていたのではないか?とも感じています。
川本:会社で仕事の基礎を覚えると、自分のカラーを出しつつ仕事の幅も広がると思います。その過程で成功や失敗を必ず体験されることでしょう。特に成功体験は満足感をもたらしますが、それにとどまらず「殻を破る、一歩抜け出す」、それは私の経験も踏まえて言いたいことです。若いみなさんには「Out of Your Comfortable Zone」と伝えたいですね。
川本:ただ、それには個人の努力だけではなく、官の援助も必要ではないかと感じす。日本では、離職や失業後の活動が個人にかなり依存しているように見受けますが、ドイツでは失業者と面談を行い、必要に応じてスキルアップを施し、個人と企業のマッチングを行う公的なDual Systemがかなり前からあります。そうした保障が充実していれば、適性にあう場所で個人が活躍できる機会が増えてゆくのではないでしょうか。(了)
<編集後記>
1970~80年代の日本経済そして日本人のダイナミズムを感じたインタビューでした。前回の国内編の時もそうでしたが、リスクを恐れず積極的に仕事に取組み、それが自身の成長、成功につながったと回顧されている点がお二人に共通しています。「成功体験に安住せず、殻を破る」という言葉は、社会人歴が長くなった私も「肝に銘じなければ」と思わされました。ドイツでの仕事のみならず、プライベートでのお話も伺え、楽しく勉強させていただきました。ありがとうございました。
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